暫くを喘ぎて登り尾根に出づ突然見ゆる白き秀峰

彼もかつてこのエベレストを仰ぎなむ沸沸と湧く闘志に奮え

幾度か往きけむこの径エベレストの頂きに立ちし君は今亡し
君が絵なるアマダブラムに対きあへり孤高の態に吾も惹かるる
ここからの展望ならむ君の描きしエベレスト街道といふわ
あの山もこの山も見しと告げたきに君は氷河を褥に眠る

エベレストはまだまだ遠く君が立ちし頂白くわづか見すのみ

エベレスト街道とふの往来に君が在りし日思いつつ行く

食う事を拒否する胃の腑恨めしきこれから山道行かむといふに

山に入りて下痢に嘔吐に不眠にと不調を託ち堪ふる日続く

山小屋の階段登るに標高の高きがゆえか息の乱るる

不調なる身は辛けれど仲間らの助けのありて山行続く

思い来しナムチェの町は整然と階段なして家家建てリ

喘ぎ喘ぎ登り来れどエベレストは頂きわづかに見するにとどむ

ローツエの肩辺に覗くエベレスト群青に映え白く輝く

エベレストは連なる嶺の奥に座しなほ苦に堪へねば全貌見せず

頂から氷河の懸かる山塊の棚なす処小さき村在り

幾重にも波打つ山の何処までも道あり家あり如何に暮さむ

吾らにはかつかつ辿り着きしところ畑耕して人ら暮らせり

イエティの頭あるとふ村の寺に夢紡がむと料金払ふ

独りにては見るを得ざらむエベレストを仲間のありてこの目に見たり

写し絵を撮るも楽しみヒマラヤのトレッキングに新雪もよし

ヒマラヤの旅の昼餉の日本茶に思わず甘しと口つきて出づ

ヒマラヤの路登る目の先桜咲く昼の陽のなか桃色の濃く

弥生中に旅立ちて来て暖冬とふ今年の桜満開ならむ

エベレストへ続く山路の道の辺に今を盛りと桜草咲く

ヒマラヤの渇ける斜りに点々と麦のみどりの優しかりけり

林なしラリーグラスの樹はあれど君の愛でたる紅き花なし

ルクラへの登りも尽きてヒマラヤのトレッキングもここに終れリ

母艦から飛び立つ飛機の態にして谷に向ひて吾が機離陸す




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